テレビなどでご覧になっている方も多いと思いますが、8月29日に厚生労働省から全国の最低賃金を平均51円引き上げることが発表されました。
最低賃金は「最低賃金法」という法律で定められており、使用者が労働者に対して支払う給与の最低額を決めたものです。各都道府県ごとにその額が決められていて、労働者の安定した生活や労働力の向上を目的としています。
働く私たちにとって、生活に直結する大切な問題です。今回はこの最低賃金について、解説いたします。
■最低賃金が定められている理由
冒頭でもお伝えしたとおり、最低賃金法の目的は「労働者の生活の安定と労働力の向上」です。労働をすることの対価として、人間らしい生活が送れるよう賃金を支給し、その労働力をさらに上げていこうという目的で、この制度が創設されています。
もしも最低賃金が決まっていなければ、会社の裁量によっていくらでも給与を下げることができ、その対価に見合わない額しか支給されないという事態にもなりかねません。それでは労働者の生活は安定が見込めませんし、その労働力も発揮されないですよね。
そんな状況になってしまうのを防ぐためにも、この最低賃金法が定められているのです。
■最低賃金はどのようにして決まる?
最低賃金は各都道府県によって様々です。
最低賃金は、まず「中央最低賃金審議会」という公益代表(中立的な立場)、労働者代表、使用者代表で構成される会議によって審議され、そこで最低賃金が決定されます。
そしてそこで決定された最低賃金が、今度は各都道府県にある「地方最低賃金審議委員会」に持ち込まれ、そこでその額の審議をおこないます。
地方最低賃金審議委員会での慎重な審議を経て、最終的には各都道府県の労務局長の判断によって、正式な最低賃金が制定されるという流れになっています。
■最低賃金の種類
最低賃金には下記の2種類が存在します。
【地域別最低賃金】
どんな労働者にも平等に与えられた最低賃金、一般的に最低賃金といった場合は、こちらを指すことが多いです。地域別最低賃金は、都道府県ごとの生計費や賃金、事業の賃金支払い能力などを考慮して決定されます。
【特定(産業別)最低賃金】
特定の産業に対して定められた最低賃金、地域別最低賃金が決定された後、その額よりも高い賃金を設定すべきだと判断された特定の産業に与えられる賃金設定です。
■最低賃金の計算方法
最低賃金の確認方法は、時給・日給・月給といった給与計算の算出方法によって異なります。
具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。
(1)臨時に支払われる賃金(結婚手当等)
(2)1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)
(3)所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金、深夜割増賃金(22時~5時)等)
(4)所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金等)
(5)精皆勤手当、通勤手当および家族手当
➊ 時給制の場合
最低賃金は1時間当たりの賃金で表されているため、地域別最低賃金の金額が時間給を上回っていれば問題ありません。
(例)東京都で時給1,113円の場合、2024年10月以降は最低賃金を下回っています。
時給1,113円 < 東京都の最低賃金額1,163円
❷ 日給制の場合
日給制の場合は、時間当たりの賃金を算出する必要があります。また、手当についても時間あたりに換算して、最終的に賃金と合算します。
(例)東京都で所定労働時間8時間(月15日間勤務)、日給8,000円、職務手当月2万円で働いている場合は、1時間当たりの時給が1,166円となり、最低賃金を上回っていることになります。
(日給8,000円÷8時間)+(職務手当1,333円/日÷8時間)=1,166円 > 東京都の最低賃金額1,163円
➌ 月給制の場合
月給制も、時間当たり賃金の算出が必要です。日給の場合と同様に、最低賃金の対象となるのは基本給と諸手当になります。
(例)東京都で所定労働時間8時間(週休2日勤務)、基本給124,000円、職務手当30,000円、職能手当20,000円、精皆勤手当10,000円の場合は、賃金が精皆勤手当を除く174,000円となり、1箇月の所定労働時間は160時間、1時間当たりの時給が1,087円となり、最低賃金を下回っていることになります。
月給174,000円(精皆勤手当は対象外)÷所定労働時間160時間=1,087円 > 東京都の最低賃金額1,163円
■最低賃金の改定後の注意点
最低賃金が引き上げられ、給与が増えれば当然ながら控除額(社会保険・所得税・市民税)も増えることになります。社会保険料は給与額に基づいて計算され、基本給があがると比例してあがります。そうしたことで期待した以上に手取りが増えない、場合によっては手取り額が減ってしまうという可能性もあります。
また、扶養内で働いている場合には、給与が増えれば扶養範囲を超えないために、労働時間の調整が必要になります。
今まで時間外労働が多かった場合では、企業側が人件費を抑えるために時間外労働を減らし、その結果給与が下がる可能性もあります。
■最低賃金Q&A
Q:雇用形態による違いはある?
A:最低賃金は雇用形態に関わらず全ての労働者に適用されるので、正社員や派遣社員、バイト、パートなどによる違いはありません。
Q:研修中も最低賃金が適用される?
A:研修中でも最低賃金は適用されます。バイトやパートを始めるとき、研修期間や試用期間中の賃金額が設定されていることがありますが、その金額も基本的に最低賃金以上でなければなりません。
※法的には試用期間中の者に対する減額特例が定められていますが、この特例を使用する例はほとんどありません。
Q:高校生や大学生も同じ額?
A:最低賃金は従業員の年齢に関わらず適用されるため、高校生や大学生、もちろんシニアであっても金額は変わりません。しかし「特定(産業別)最低賃金」に関しては、18歳未満と65歳以上は適用されません。
令和6年の最低賃金は過去最高の引き上げ額になりました。
★宮崎県 改定前:897円 改定後:952円(55円UP)
※全国の引き上げ額は厚生労働省のHPなどで確認できます。
その背景には、生活必需品やエネルギー価格などの上昇や、パートや派遣社員など非正規雇用者の保護、労働者確保、コロナの影響からの経済回復の促進などがあります。またその影響は幅広く、労働者、企業への影響のほか消費と経済全体、雇用へも影響を及ぼします。
最低賃金について知ることは、自分の労働環境を守るための大切な一歩!
毎年行われる最低賃金の改定が私たちの生活にどのような影響が出るのか考えることが重要です。